任意整理とは?自己破産・個人再生との違いを司法書士が徹底解説

当サイトの記事はすべて司法書士三浦永二(東京司法書士会所属、登録番号7300号)が執筆しています。

任意整理は、自己破産や個人再生と同じ「債務整理」の一種です。

他の債務整理手続きに比べて費用も抑えられ、手続きも比較的シンプルなため、利用者が最も多い債務整理方法です。

ただ、「債務整理」と聞くと、その言葉だけでなんとなくマイナスなイメージがあると思います。

しかし、実際には手続きを行った人の多くから「生活が楽になった」「もっと早く相談すればよかった」と言っていただけます。

任意整理の仕組みやメリット・デメリット、どのような状況で選択すべきかを、司法書士の立場から解説します。

参考元:債務整理-東京司法書士会

目次

任意整理の基本:利息をゼロにし、元金のみを分割返済

任意整理をすると借金はどうなりますか?

任意整理とは、借金の利息をカットし、元金のみを3〜5年(通常36〜60回)で分割返済していく手続きです。

利息がなくなることで、毎月の返済額が軽減され、支払った分だけ確実に元本が減るため、「いつ完済できるのか」が明確になるのが特徴です。

任意整理をすると
  • 任意整理後の利息は0%になる
  • 元金のみを3~5年で分割で支払う

任意整理は、自己破産や個人再生とは異なり、裁判所を通さず弁護士や司法書士が貸金業者と交渉を行い進める手続きです。

利息がゼロになることで、確実に元本を減らせる

任意整理を行うと、将来の利息が原則としてすべてカットされ、借金の元本(元金)のみを分割で返済していく形になります。

通常、借金の返済では毎月の支払いの多くが利息に充てられ、なかなか元本が減らない状況に陥りがちです。

「毎月返しているのに、残高が減らない」と感じている方には、任意整理は非常に有効です。

利息がなくなることで、支払った金額がすべて元本の返済に充てられるため、完済までの見通しが立てやすくなります。

利息がなくなるメリット
任意整理前
半分が利息の支払い
任意整理後
返済した金額の分だけ元金が減っていく

※銀行等での借り入れで金額が大きくて、毎月の支払いが少額な場合は、任意整理をすると、かえって支払額が増えることもあります。

任意整理後の返済期間は原則3〜5年

任意整理では、借金の返済期間は「36回」~「60回」払いが基本となるので、3年~5年払いになります。

ただし、債権者(貸金業者)との交渉次第で、より長期の分割返済が認められることもあります。

たとえば、年齢やこれまでの返済実績、収入状況などが考慮され、60回を超える分割に応じてもらえる可能性もあります。

一方で、すべての貸金業者が柔軟に対応してくれるわけではありません。

「36回以下の返済しか認めない」「そもそも任意整理の交渉自体に応じない」といった業者も存在します。

任意整理をすると
完済までに支払う金額が少なくなる

利息が0%になり、借金の元金だけの返済になるので、完済までに支払う総額が大幅に少なくなります

完済までの期間が短くなる

支払えば支払った分だけ借金が減っていくため、完済までの期間が短くなる可能性があります

毎月の返済額が少なくなる

長期の分割払いになるので、毎月の返済額が少なくなる可能性があります

任意整理の対象:消費者金融だけでなく銀行・カード会社も対象に

任意整理は、消費者金融だけでなく、銀行からの借入やクレジットカードのキャッシング・ショッピングリボも対象になります。

ただし、銀行を整理対象に含めると、口座が一時的に凍結される可能性があります。

また、カード会社を任意整理すると、そのカードは解約となり、今後の利用はできなくなります。

銀行とカード会社の任意整理の注意点については、以下の記事でも詳しく解説しています。

任意整理のメリット

任意整理のメリット
  • 督促や取り立てが止まる
  • 利息・遅延損害金の負担が軽減される
  • 毎月の返済額が抑えられる
  • 完済までの期間が短くなる

督促や取り立てが止まる

支払いを滞納していて、督促や一括返済を請求されていても任意整理はできますか?

滞納していて、一括返済の請求が来ていても任意整理をすることができます。

滞納したまま放置していると、裁判を起こされてしまうことがあり、裁判になった後は任意整理の交渉が難しくなります。

そのため、滞納している場合はなるべく早く相談するべきです。

任意整理を依頼すると、弁護士や司法書士は各貸金業者へ「受任通知」という書類を送付します。

受任通知が送付された後は、貸金業者から本人への連絡は禁止されるので、これにより督促や連絡は停止されます。

滞納していても任意整理は可能ですが、放置すると裁判を起こされるリスクが高まり、手続きが複雑になるため、早めの相談が重要です。

遅延損害金の増加を防げる

返済を長期間滞納していると、利息とは別に遅延損害金が加算されます。

任意整理では、遅延損害金も交渉によって減額またはカットするよう交渉しますが、債権者によって対応は異なります。

任意整理前
借金の元金+遅延損害金の返済が必要
借金の元金
遅延損害金
任意整理後
借金の元金のみの返済になる
借金の元金
遅延損害金はカット

遅延損害金のカットに応じてもらえない可能性もあります。

裁判を起こされると遅延損害金のカットはできない

裁判を起こされた後も、裁判所で和解ができれば利息をカットして、分割での支払いが可能です。

しかし、裁判所で和解をする場合は、基本的に遅延損害金はカットできません。

遅延損害金がカットできなかった場合は、元金+遅延損害金を分割返済することになります。

遅延損害金がカットできないと返済額も増えるため、早めに相談をしたほうが任意整理は進めやすくなります。

遅延損害金と裁判については、以下の記事でも詳しく解説しています。

毎月の返済額が抑えられる

利息をなくして、長期の分割払いにすることで月々の負担が軽減される可能性があります。

例えば50万円を利息18%で借りていると

毎月の利息が7,500円になるので、返済額が1万5,000円の場合は、元本は半分の7,500円しか減りません。

これに対して、任意整理で利息を0%にすれば、返済した分がすべて元本に充てられます。

50万円の借入だと任意整理後の毎月の返済額は、36回分割なら1万4,000円ほど、60回分割なら9,000円ほどです。

利息がなくなるメリット
任意整理前
半分が利息の支払い
任意整理後
返済した金額の分だけ元金が減っていく

そのため、任意整理をすることで、返済額も少なくなることが多いです。

利息カットのメリットを比較

利息がなくなって、長期の分割払いになるメリットはわかりにくいと思うので、任意整理前と任意整理後で比較します。

3社から50万円ずつ=合計150万円の借入、毎月の合計返済額33,000のケース

任意整理して利息0%、60回の分割払いになると

任意整理前任意整理後(60回払い)
借入金額150万円150万円
年利18%0%
毎月の返済額33,000円約25,000円
完済までの期間6年5ヶ月5年
利息の総返済額約102万円0円

任意整理を行うことで完済までに支払う金額が減り、完済まで早くなり、毎月の返済額が減る可能性があります。

任意整理の流れについては以下の記事で詳しく解説しています。

任意整理のデメリット

任意整理のデメリットを教えてください

1番のデメリットは、任意整理するとブラックリストに登録されることです。

ブラックリストに登録されると、数年の間は借入したり、ローンを組んだり、クレジットカードを作ることが難しくなります。

参考元:信用情報とは-指定信用情報機関のCIC

信用情報に事故情報が登録される(いわゆるブラックリスト)

ブラックリストに登録されるとできなくなること
  • お金を借りられなくなる
  • ローンを組めなくなる
  • クレジットカードが持てなくなる

任意整理を行うと、信用情報機関に事故情報が登録され、いわゆる「ブラックリスト状態」になります。

この状態は任意整理後に完済してから5年間ほど続き、その間は新たな借入やローン契約、カードの作成などができなくなります。

任意整理中+完済から5年間
ブラックリストに登録される
任意整理中
完済後5年影響が残る

借金ができる状況だとどうしても借りてしまう人は、借り入れ等ができなくなることはデメリットではなくメリットにもなります。

ショッピング等はスマホ決済やデビットカードで代用でき、ETCはETCパーソナルカードで代用可能です。

ブラックリストについては以下の記事でも詳しく解説しています。

おまとめローンを組む選択もある

ブラックリストに登録されるのを避ける方法としてはおまとめローンを組むという方法もあります。

しかし、おまとめローンでは利息が発生するため、任意整理と比べるとそこまで返済は楽にはなりません。

おまとめローンについては以下の記事でも詳しく解説しています。

業者によっては利息カットに応じないこともある

任意整理は「任意交渉」に基づく手続きであるため、すべての貸金業者が利息の免除に応じるとは限りません。

通常は利息のカットに応じてくれる業者でも、取引実績が浅い場合などは、利息のカットを拒否される可能性もあります。

借入から~1年間未満だと利息のカットに応じない業者が多いです。

ただし、大手の消費者金融や信販会社であれば、一般的には応じてくれることが多いです。

任意整理ができない場合は個人再生自己破産を検討する必要があります。

元金の返済は必須

任意整理をすると利息はなくなりますが、借金の元金自体は残るので、任意整理後も毎月の返済が必要になります。

もともとの月々の支払いが少額だった場合は、3〜5年の分割払いでも返済額が増えるケースもあります。

任意整理では返済が難しいと判断された場合は、個人再生自己破産の選択肢も検討する必要があります。

任意整理のデメリット

任意整理と他の債務整理との違い

任意整理と、個人再生や自己破産との違いはなんですか

任意整理は利息をなくしてもらって、借金の元金を分割で返済する手続きなので、借金の元金自体の減額はありません。

個人再生では借金自体を減額して、減額された金額を分割で返済することになります。

自己破産は借金すべてを免除してもらうことになります。

参考:個人再生-東京弁護士会

自己破産-東京弁護士会

任意整理は利息のカットが中心、元本は減らない

任意整理では、将来発生する利息の支払いを免除してもらい、借金の元本(元金)を分割して返済する手続きで、元本の減額はありません。

自己破産は、裁判所を通してすべての借金の返済義務を免除してもらう手続きです。

個人再生は、元本自体を大幅に減額し、減額後の金額を分割返済していく手続きです。

任意整理
元金は減らない
個人再生
借金が減額される
自己破産
借金を支払う必要がなくなる

任意整理では借金の元本は減らないが、総返済額は減る

任意整理では利息がカットされるため、結果的に完済までの総支払額は減ります。

また、過去に法定利息を超える利率で支払っていた場合は、引き直し計算によって元本が減額されたり、過払い金が発生することもあります。

過払い金については以下の記事でも詳しく解説しています。

返済中でも引き直し計算をすると過払い金発生する

任意整理は裁判所を通さず手続きが可能

自己破産と個人再生は裁判所を通して行う手続きです、時間や書類の準備に手間がかかります。

任意整理は裁判所を通さずに弁護士、司法書士が直接業者と交渉を行います。

裁判所を通さないので、任意整理は手間が少なく手続き期間も短いです。

一部の業者だけを任意整理の対象にすることも可能

自己破産や個人再生は、すべての借金を整理の対象に含める必要があります。

しかし、任意整理では整理対象とする債権者を選ぶことが可能です。

たとえば、自動車ローンや保証人がついている借金などは除外できます。

任意整理しなかったカードも解約になる可能性あり

任意整理の対象外にしたクレジットカードでも、信用情報に影響が出るため利用できなくなる可能性が高い点には注意が必要です。

すべての借金を任意整理しなければ生活の再建ができないのであれば、全業者まとめて任意整理するべきです。

家族や勤務先にばれにくい

個人再生や自己破産では同居の家族の収入証明等を求められることがあります。

しかし、任意整理では家族の収入証明等は求められないので、家族や勤務先にばれにくい手続きです。

また、弁護士や司法書士からの書類も、郵便局留めなどを活用することで、自宅に届かないように調整することも可能です。

任意整理は家族にバレずにできるのか

アルバイトやパートでも利用できる

個人再生の場合、安定した継続的な収入があることが条件となりますが、任意整理にはそこまでの厳格な条件はありません。

アルバイトやパートの方も、毎月きちんと支払っていける見込があれば任意整理を行うことが可能です。

パートやアルバイトの方の任意整理については以下の記事でも詳しく解説しています。

任意整理では官報に載らない

自己破産や個人再生では国が発行する官報に住所や氏名が掲載されます。

一方、任意整理では官報に掲載されることはありません。

任意整理と他の債務整理の違い

どのような場合に任意整理を選ぶべきか

任意整理をするべきなのはどのような場合ですか?

任意整理を選ぶ基準としては、借金の返済が難しい状況であることと、借金の元金を原則36回~60回程度の分割払いで払える見込みがあることです。

後はどうしても一部の借金を債務整理の対象にしたくないという場合や、家族に秘密で借金をなんとかしたい場合です。

借金の元金を36回~60回での分割払いが難しいのであれば、任意整理ではなく他の債務整理を検討するべきです。

返済に追われている

基本的に債務整理は生活の再建のために行う手続きなので、任意整理をした方がお得だからとか、そのような理由ではすべきではありません。

借金を36回~60回の分割払い支払っていける

元金を36回~60回の分割で支払っていけそうなら任意整理、厳しい場合には個人再生や自己破産を検討することになります。

借金が膨れ上がった後では、任意整理では解決できない場合があります。

任意整理できる人

  • 毎月の手取り額 25万
  • 毎月の支出 20万
  • 借金総額 100万円

上記の場合、手取り額から支出を差し引くと5万円になるので、毎月の返済にあてられる金額の上限は5万円になります。

100万円の借金を任意整理して36回の分割払いになると毎月28,000円ほどの返済になるので、

毎月返済に充てられる5万円よりも、任意整理後の返済額である28,000円のほうが少ないため、任意整理が可能ということになります。

一部の借金を除外したい

例えば、自動車ローンを組んでいる方が自己破産や個人再生を行うと、車は引き挙げられてしまいます。

その点、任意整理では整理する業者が選択できるため、自動車ローン等を除外して手続きすることが可能です。

仕事や生活で、どうしても車を手放すことはできない人におすすめです。

その他、保証人が付いている借金を債務整理すると保証人に迷惑がかかるため、保証人が付いている借金は除外したい場合等が考えられます。

債務整理と自動車の関係については以下の記事でも詳しく解説しています。

任意整理を選ぶべきではない場合

現在の借金の元金を36回~60回の分割払いにしても毎月の返済ができない場合は、任意整理を行うことはできません。

※60回分割以上の分割を組んでくれる業者も一部あります。

任意整理ができない場合は、個人再生や自己破産を検討すべきです。

任意整理できない人

  • 毎月の手取り額 25万
  • 毎月の支出 23万
  • 借金総額 200万円

手取り額から支出を差し引くと2万円になるので、毎月の返済にあてられる金額の上限は2万円になります。

200万円の借金を任意整理して60回の分割払いになると、毎月33,000円ほどの返済になります。

毎月返済に充てられる金額である2万円よりも、任意整理後の返済額である33,000円のほうが多いため、任意整理をすることはできません。

まとめ

任意整理のメリット

  • 督促が来なくなる
  • 将来の利息がカットされ、総返済額が抑えられる
  • 毎月の返済額が少なくなる可能性がある
  • 対象にする債権者を選べる
  • 家族や職場に知られにくい

ブラックリストに登録されるとできなくなること

  • お金を借りられなくなる
  • ローンを組めなくなる
  • クレジットカードが持てなくなる

任意整理は自己破産や個人再生と比べ費用も安く、裁判所を通すこともありません。

そのため、本人の手間が少なく、債務整理手続きのなかでは1番簡単な手続きと言えます。

ただ、任意整理にもブラックリストに登録されるデメリットはあるので、デメリットとメリットを比較して検討する必要があります。

といっても、相談を躊躇している間に借金が増えてしまうと、任意整理では解決ができなくなることもあります。

無理して任意整理で手続きを進めたけど、病気や仕事の都合で収入が減ったりして結局後で自己破産することになってしまった・・・

ということもあるので、任意整理をしたいのであれば借金が膨れ上がる前になるべく早めに相談をするべきです。

生活費のために借金をしたとか、借金を返すために借金をしている状態であればすぐに専門家へ相談すべきです

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