借金を相続したら|相続放棄と債務整理の判断手順を司法書士が解説

当サイトの記事は、司法書士 三浦永二(東京司法書士会/登録番号7300号)が執筆・監修しています。

家族が亡くなった後に借金が見つかったとき、やってはいけないのは「督促が来たから、とりあえず少しだけ払っておく」という対応です。

これで相続放棄の道が閉ざされ、本来なら負担しなくてよかった借金を丸ごと背負い込むことになった相談を、これまで何件も受けてきました。

借金を相続したら、まず預貯金・不動産・保険・過払い金の有無まで含めて相続財産の全体像を把握することが必要です。

そのうえで、残したい財産がないなら相続放棄、自宅など手放せない財産があるなら債務整理というように、状況に合わせて進め方を選びます。

本記事では、借金を相続したときに何を・どの順番で判断すべきかを、司法書士の視点で整理します。

参考:債務整理-東京司法書士会

相続の放棄の申述-裁判所

目次

単純承認・相続放棄・限定承認・債務整理、4つの違い

単純承認

プラスもマイナスもまとめて引き継ぐのが単純承認です。

相続放棄や限定承認をしないまま3か月を経過すると、原則として単純承認したものとして扱われます。

財産のほうが明らかに多いケースならそのままで問題ありません。

実際には、借金の全体像を調べないうちに3か月が過ぎ、気づいたら放棄できなくなっていた、というパターンが少なくありません。

遺産の一部を使ったり処分したりすると、その時点で単純承認とみなされる(民法921条)点にも注意が要ります。

相続放棄

相続放棄をすると、はじめから相続人でなかったことになります。

借金は引き継がない代わりに、預貯金も不動産も受け取れません。

借金のほうが多いケース、あるいは残したい財産が特にないケースでは、第一選択になります。

原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」(民法915条1項)に家庭裁判所へ申述する必要があります。

遺産の一部でも処分してしまうと放棄が認められなくなるため、注意が必要です。

令和6年司法統計年報によれば、全国の家庭裁判所で新たに受理された相続放棄は30万8,753件でした。

却下に至る割合は非常に低く、必要書類と形式を整えて熟慮期間内に申述すれば、認められやすい手続きといえます。

限定承認

限定承認は、取得した財産の範囲内でのみ債務を負担する方法です。

財産もあるが、負債の全体像がはっきりしない場合に検討されることがあります。

相続人全員が共同で申述しなければならず手続きが複雑です。

実際に利用されるケースはあまり多くありません。

債務整理

相続放棄をしない、あるいはできない状況で、借金の返済が難しいときに検討するのが債務整理です。

債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産という方法があります。

自宅や事業用資産など、どうしても手放せないものがある人がこちらへ進みます。

信用情報機関に事故情報が登録される、いわゆるブラック状態になる点は押さえておく必要があります。

相続人が債務整理を選ぶのは、おおむね次のどちらかです。

  • 相続放棄の3か月を過ぎてしまった
  • 残したい財産があるため、相続放棄を選ばない

信用情報への影響については下記の記事で詳しく触れています。

相続放棄か債務整理か、判断の順番

STEP
借金がありそうですか?
  • YES
    • 契約書、督促状、明細、カード、通帳などを確認し、どこからいくら借りていたのかを調べます。
    • 次のステップへ
  • よくわからない
    • 書類がなくても、信用情報の取得などで確認できることがあります。
    • 借金があった場合は次のステップへ
  • NO
    • 相続放棄を検討する必要はありません。
STEP
相続放棄ができない、またはしたくない事情がありますか?
  • YES
    • 相続したうえで、債務整理を検討します。
  • NO
    • 借金が多く、残したい財産もないなら、相続放棄が有力です。
    • 次のステップへ
STEP
相続開始を知ってから3か月以内ですか?
  • YES
    • 相続の放棄を進めることが可能です。
  • NO・期限が近い
    • 放棄の期限が問題になります。
    • 間に合いそうにない場合は期間伸長を検討すべきです。

相続放棄の期限は原則3か月です

相続放棄は、原則として「相続の開始を知った日から3か月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります。

この3か月間に、次の確認が必要です。

  • 相続人が誰か
  • 借金がどれだけあるか
  • 預貯金や不動産などの財産があるか
  • 放棄すべきか、承継すべきか

戸籍集めだけで数週間~1か月以上かかることも珍しくなく、3か月はあっという間です。

間に合わないときは、家庭裁判所への期間伸長の申立てを検討します。

3か月を過ぎても相続放棄できる場合がある

知ったときから3か月を過ぎた時点で単純承認となりますが、例外を認めた最高裁判決があります。(最高裁昭和59年4月27日判決)

次の3つが揃う場合には、熟慮期間の起算点を「相続財産の全部または一部の存在を認識した時」に繰り下げてよいとしました。

  • 3か月以内に放棄しなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じていたため
  • 被相続人との生活歴や交際状況からみて、財産の有無を調査することが著しく困難な事情があった
  • そのように信じたことに相当な理由があると認められる

「亡くなってからしばらく経って、とつぜん借金の督促状が届いた」という相談は、実際によくあります。

この場合は支払う前に、相続放棄ができるかどうかを、事情経過も含めて慎重に確認することが大切です。

上申書が必要になり難易度が上がるので、自力で進めるのは避け専門家に相談をすべき案件です。

相続人の順位と、借金を誰が引き継ぐのか

配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人になります。

配偶者と並んで相続人となる血族は、次の順位で決まります。

上の順位に相続人がいる間は、下の順位の人は相続人になりません。

  • 第1順位:子(子が先に亡くなっていれば孫)
  • 第2順位:父母などの直系尊属(父母が亡くなっていれば祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥姪。兄弟姉妹の代襲は一代限り)

法定相続分

相続人の構成    配偶者の割合その他の相続人   
配偶者のみ100%
配偶者

子ども
1/2子どもで1/2を均等に分配
配偶者

父母等
2/3父母等で1/3を均等に分配
配偶者

兄弟姉妹
3/4兄弟姉妹で1/4を均等に分配

借金も法定相続分に応じて分けて引き継ぐ

法定相続人が複数いる場合、借金は相続人全員が法定相続分に応じて分割して引き継ぎます。

100万円の借金:相続人は妻と2人の子供のケース

妻:1/2⇒50万円の債務

子ども:1/2で50万円を2人で分割して1人あたり25万円の債務

遺産分割協議で「妻がすべての債務を負担する」と決めても、債権者は法定相続分に基づいて請求する権利があるため、協議には拘束されません。

また、他の相続人が返済を怠ったとしても、自分の法定相続分以上の返済義務は生じません。

上記の例で妻が返済を怠っても、子供は25万円以上の支払いの義務を負いません。

相続放棄できないときの債務整理という選択肢

任意整理|財産を残して返済の負担を軽くする

任意整理は、裁判所を使わずに債権者と交渉し、将来利息のカットや分割返済を目指す手続きです。

実際のところ、相続人が債務整理を選ぶケースのほとんどが、自宅などの財産を残したくて相続放棄できない状況です。

財産を処分せずに済み、月々の返済を現実的なラインに落とせる任意整理は、相続がらみの債務整理では最も相性がよい方法と言えます。

任意整理については以下の記事で詳しく解説しています。

自己破産|借金をゼロにできる代わりに財産は処分される

自己破産は、裁判所の手続きで借金を免除してもらう方法です。

ただし、相続した自宅や預貯金などは処分の対象になるため、財産を残すことはできません。

相続放棄なら信用情報に事故情報が残ることもありません。

相続放棄がまだできる状況なら、自己破産ではなく相続放棄を選ぶほうが通常は合理的です。

  • 3か月の期限を過ぎていてすでに単純承認が確定している
  • 自分自身にも元から借金がある

このような事情がなければ、わざわざ自己破産を選ぶ理由はあまりありません。

自己破産については以下の記事で詳しく解説しています。

個人再生|財産が多いと減額幅が小さくなる

個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額し、原則3年で返済する手続きです。

相続案件で注意したいのは、清算価値保障原則というルールです。

再生計画で返す総額は、保有財産の評価額を下回ってはいけない、という建前があります。

たとえば1000万円の借金を個人再生すると、法定の最低弁済額は200万円です。

しかし500万円相当の相続財産があると、最低弁済額は500万円まで引き上がります。

相続で不動産を受け継いだケースでは、この点が効いてきて「思ったほど減らない」という結論になりがちです。

個人再生については以下の記事で詳しく解説しています。

3制度の比較

制度   借金の扱い   財産の扱い   
任意整理利息カット+元金分割残せる
自己破産原則全額免除処分対象
個人再生大幅減額財産額に応じて返済額が増える

なお、亡くなった方に住民税や固定資産税などの滞納がある場合、税金そのものは債務整理で減らせません。

相続放棄をすれば納付義務も引き継がずに済みますが、承継してしまうと、分納などの交渉を各役所と直接行う必要があります。

「親が残した実家だから」と無理に任意整理を選ぶ人も多いです。

ご自身の収入に対して毎月の返済額が大きすぎ、結果的に数年後に家を手放すことになったケースもあります。

感情論ではなく、冷静な収支のシミュレーションが不可欠です。

長年返済していたなら、過払い金の可能性も同時に検討する

故人が長年借金を返済していた場合、払いすぎた利息である「過払い金」が発生している可能性があります。

借金が残っていると思っていたのに、調べると実際には返金を受けられる側だった、というケースもあります。

2007年以前からの借入は要チェック

利息制限法の上限を超えたグレーゾーン金利が消滅したのは2010年6月。

多くの業者が上限金利を引き下げたのが2007年頃です。

2007年以前から取引があった消費者金融やクレジットカードのキャッシングは、過払い金が出る可能性があります。

契約書や明細書が手元になくても、業者に取引履歴を開示請求し、利息制限法の上限で引き直し計算をすれば発生額を確認できます。

順番を間違えると取り返しがつかない

過払い金が見つかった場合、一つだけ大きな注意点があります。

過払い金返還請求を行うと、その時点で相続財産の処分にあたると判断され、単純承認が成立してしまいます。

過払い金より借金残高のほうが大きかった、と後から判明しても相続放棄をすることができません。

プラス・マイナスの財産を洗い出したうえで、請求するか放棄するかを決めることが重要です。

相続放棄や債務整理をする前に、必ず財産の全体を調査

家族が亡くなり相続が発生したら、まずは相続財産がどのぐらいあるかを調査します。

預貯金や不動産、自動車等のプラスの財産は当然のこと、借金等のマイナスの財産もすべて調査する必要があります。

借金があるかどうかわからないのであれば、まずは自宅に資料が残っていないか確認すべきです。

借金の確認方法

  • 貸金業者との契約書
    • 借入残高や保証人の有無を確認することで、相続すべき負債を把握できる
  • 支払明細
    • 借入残高や返済状況がわかり、相続財産調査や相続放棄の判断材料になる
  • 督促書
    • 未払いがある場合に届くので、債権者や債務額を確認できる
  • カード
    • どの金融機関と契約していたかを特定できる
  • 通帳で引き落とし名義の確認
    • 定期的な引き落としや支払い記録から、どこに返済していたかを確認可能
  • 信用情報機関(JICC/CIC/全国銀行協会)から信用情報を取り寄せる
    • 借入先・契約残高・延滞情報などを確認でき、相続放棄や債務整理を判断する際の資料になる

信用情報に出ない債務に注意

信用情報は、あくまで登録業者との取引情報です。

個人間の貸し借り、家賃滞納の一部、奨学金の一部、税金の滞納、病院の未払いなどは信用情報には出ません。

財産調査の結果

マイナスの財産のほうが多いケースでは、相続放棄等を検討すべきです。

相続財産があり相続放棄ができなくて、かつ支払が難しいのであれば債務整理をするという方法がいいでしょう。

状況優先アクション
負債が明らかに多い
プラス財産なし
相続放棄の検討
不動産
事業を守りたい
承継+債務整理

判断を誤りやすい典型パターン

督促が来たので、一部だけ支払ってしまう

相続財産から一部でも返済すると、民法921条の法定単純承認にあたる可能性があり、以後の相続放棄が認められなくなります。

督促が来たので封筒に振込用紙が入っていたので払ってしまった、というケースは多いです。

預貯金を解約する・不動産の名義変更をする

遺産の預貯金を使ったり、自分名義に変更してしまうと、処分行為として単純承認と見なされます。

※相当な範囲の葬儀費用の支出であれば処分行為とされないケースもあります。

期限ぎりぎりまで動かない

戸籍の広域交付が始まってかなり楽になったとはいえ、戸籍の取り寄せに時間がかかることも珍しくありません。

3か月は思ったより短い、というのは実務をやっていると何度も感じる点です。

長期取引があるのに過払い金を確認しない

過払い金の調査をせずに相続放棄すると、本来は返還を受けられたはずの金銭まで一緒に手放すことになります。

家裁の照会書を軽く扱う

相続放棄申述を出した後、家裁から「照会書」が郵送で届くことがあります。

これは本人の真意確認や単純承認にあたる行為がなかったかを確認する書類で、届いた場合は回答期限を守りましょう。

解決事例

実家を残したくて任意整理を選んだ50代女性

母の死亡で実家を相続したが、同時に消費者金融3社・計約280万円の借金も引き継ぐことになりました。

相続放棄すれば借金はゼロになる一方、母と同居していた実家を失うため、任意整理で受任。

3社の将来利息をカットし、60回払いに組み直した結果、月々の返済額は約4万7千円まで圧縮できました。

ご本人の収入で実家を維持しながら返済可能な計画に落ち着きました。

事業用不動産を守るために任意整理した60代男性

父から事業で使っている店舗兼住宅を相続しましたが、父名義のカードローン約350万円も同時に判明しました。

店舗を手放せば廃業になるため、相続放棄は選択肢から外れます。

債権者と任意整理で交渉し、将来利息カットと84回払いで合意。

月々の返済を売上から無理なく捻出できる額に抑え、事業を継続したまま完済の見通しが立ちました。

過払い金が借金を上回っていた事例

長年会っていなかった独身の弟さんが亡くなり、消費者金融2社から計200万円ほどの借金があるという話でした。

兄弟姉妹が相続人になるケースです。

当初は相続放棄の方向で話が進んでいましたが、調べてみると借入は20年以上前からの取引。

取引履歴を取り寄せて引き直し計算をしたところ、借金がなくなり80万円の過払い金が発生していることが判明しました。

長期取引の借金を相続した場合、放棄の判断をする前に必ず過払い金の可能性を調べることは非常に重要です。

よくある質問

相続放棄をした場合、ほかの相続人に借金は引き継がれますか?

放棄をすると次順位の相続人が相続することになります。

子が放棄した場合は父母に、父母が放棄した場合は兄弟姉妹が相続人になります。

相続した借金にショッピングのリボ払い等も含まれますか?

入ります。クレジットカードのショッピングリボ、立替金、家賃の滞納なども金銭債務として相続の対象になります。奨学金の返済債務も同様です。

相続放棄が受理されたのに債権者から請求が来ます。払う必要はありますか?

払う必要はありません。債権者は相続放棄の事実を自動では把握できないため、初期の請求は普通に来ます。

家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」、あるいは「相続放棄申述受理証明書」の写しを送れば、通常は請求が止まります。

相続放棄の熟慮期間の伸長は何度でも認められますか?

相当の理由があれば、再度の伸長も認められうるとされています。ただし、なぜ前回の伸長期間内にも判断できなかったのかを、具体的な調査状況を添えて説明する必要があります。漫然と延ばし続けるのは難しい、と考えておいてください。

相続した借金も、時効で消えることはありますか?

あります。2020年4月1日に施行された改正民法のもとでは、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年のうち早いほうで消滅時効が完成します。

まとめ

借金を相続したときに取りうる道は、相続放棄・限定承認・承継+債務整理の3パターンに大別できます。

どれが正解かは、財産の中身と期限までの残り時間で決まります。

判断の順番は次のとおり。

  1. まずは調査(全体像の把握)
    • 借金だけでなく、預貯金・不動産・車・保険・過払い金の可能性など、プラスとマイナスをまとめて確認します。
  2. マイナスが多いなら、相続放棄(または限定承認)を検討
    • 借金を引き継がない方法を優先し、期限(原則3か月)も意識して動きます。
  3. 相続放棄ができない/したくないなら、承継したうえで整理
    • 相続した借金は、返済状況に応じて 任意整理・個人再生・自己破産 などで負担を整理できる場合があります。

迷ったときは「調査→放棄/限定承認→承継+整理」の順番で整理すると、判断ミスが減り、現実的な解決策にたどり着きやすくなります。

司法書士からのアドバイス

最後に、相続放棄を選択肢として残しておくために、絶対に避けたい行動をまとめておきます。

  • 財産を処分する/名義変更する/売却する
    • 相続する意思があったとみなされ、相続放棄が難しくなることがあります。
  • 借金を安易に支払う(とりあえず一部だけ払う)
    • 同様に「相続を認めた」と見られるリスクがあります。
  • 「借金だけ放棄して、財産だけ相続する」発想
    • 相続放棄は原則として全部まとめて放棄です。
    • 都合の良い部分だけを選ぶことはできません。
  • 期限ギリギリまで放置する
    • 調査が間に合わず、結果として選択肢が狭まります。

次のどれかに当てはまるなら、自己判断で動く前に一度相談してください。

  • 相続開始を知ってから3か月が近い
  • 不動産・車など、手放したくない財産がある
  • 借金の全体像がつかめない(カードローン・保証・請求が複数など)
  • 債権者から督促や通知が届いている/連絡が来ている

借金相続は、期限・手続き・判断が絡むため、自己判断で動くほどリスクが増えやすい分野です。

状況を整理して「いま何をすべきか」を明確にするだけでも、解決のスピードは大きく変わります。

目次