年金受給者の方が債務整理を検討するとき、悩みは大きく3つに分かれます。
- そもそも年金だけで生活していても債務整理できるのか
- 債務整理をすると年金が減る・止まるのではないか
- 借金があると年金が差押えされるのではないか(受給口座も含む)
結論から言うと、年金受給者でも債務整理は可能です。
ただし「どの手続きが現実的か」は、借金の額だけでなく毎月の収支・債権者などによって変わります。
年金受給者でも利用できる債務整理の方法(任意整理・個人再生・自己破産)を、司法書士の視点でわかりやすく解説します。
参考元:債務整理-東京司法書士会
年金受給者でも債務整理は可能
定年退職をして年金収入のみで生活している方でも、問題なく債務整理が可能です。
下記の3つの債務整理から状況に応じて選択が可能です。
- 任意整理
- 利息がカットされる
- 3〜5年で分割返済
- 自己破産
- 支払不能なら借金が免責される
- 生活の立て直しを優先
- 個人再生
- 借金を大きく減額
- 3年で分割返済
年金は「安定した収入」とみなされます
債務整理、特に「任意整理」や「個人再生」を行う場合、「返済を続けていける安定した収入」が必要です。
公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金など)は、給与所得と同様に「安定した収入」として扱われます。
年金受給者の債務整理:かんたん判断フロー
まずは、現実的に毎月いくらなら支払えるか(返済原資)を算出します。
計算式: 年金(手取り) - 生活費 = 【返済に回せるお金】
任意整理では「将来の利息をカット」し、残った元金を「3年〜5年(36回〜60回)」で分割払いするのが一般的です。
計算式: 現在の借金総額 ÷ 36回(60回) = 【目安の毎月返済額】
この計算結果が、STEP1で出した「返済に回せるお金」の範囲内に収まるなら、「任意整理」で解決できる可能性が高いです。
STEP2の計算で「毎月の返済額が高すぎて払えない」となった場合は、借金自体を減らす・ゼロにする手続きを検討します。
- 持ち家を残したい・一定の返済能力がある
- 「個人再生」を検討
- 借金を1/5ほどに圧縮
- 返済余力がほとんどない・資産(持ち家等)がない
- 「自己破産」を第一候補に
- 借金を全額免除
「家はあるけどローンは終わっている」「警備員などの資格制限がある」など、個別の事情によって最適な選択肢は変わります。
もし、あなたの借入期間が長い場合(目安:2007年以前から利用)、「過払い金」が発生している可能性があります。
過払い金がある場合: STEP2の「借金総額」が大幅に減る、あるいはゼロになり、手元にお金が戻ってくることもあります。
ご自身の記憶だけで判断せず、専門家に調査(取引履歴の取り寄せ)を依頼するのが確実です。
過払い金の有無で、選ぶべき手続きがガラリと変わることも珍しくありません。
高齢の方の場合、ギリギリの計算は危険です。
「医療費・介護費の増加」や「急な出費」に備え、生活費には少し余裕を持たせた金額(予備費)を計上してください。
無理をして途中で払えなくなるのが一番のリスクです。
債務整理をしても年金は減額・ストップされません
債務整理をしたことが原因で、年金機構からの支給が止まることや、受給額が減らされることはありません。
公的年金(受給権)は原則として差押禁止
公的年金を受け取る権利は「差押禁止債権」と定められています。(国民年金法第24条・厚生年金保険法第41条)
つまり、借金を返せなくなったとしても、債権者(貸金業者)が年金の受給権そのものを差し押さえることは禁止されています。
口座に入金された年金は「預金」として扱われる
年金を受け取る権利は差押えされませんが、注意点があります。
それは、「口座に振り込まれた瞬間、そのお金は『年金』ではなく『預金(現金)』という扱いになる」ということです。
借金を放置して裁判を起こされ、差押えが決まった場合、口座のお金は「元が年金だったかどうか」に関わらず、差押えの対象になります。
ただし「税金等の滞納」は差押えの対象になる
税金・社会保険料などは、借金とは扱いが異なり、滞納が続くと差押え等の手続きに進む可能性があります。
税金等は原則として債務整理の対象外なので、「借金だけ整理しても、税金の支払いができない」状態は避ける必要があります。
税金・健康保険料の滞納も解決するための4ステップ
公的な支払い(住民税・固定資産税・国民健康保険料など)を滞納している場合、放置するのが最も危険です。
以下の手順で生活再建を目指しましょう。
督促を無視し続けると、預金や年金が差し押さえられるリスクがあります。
まずは窓口へ連絡し「支払う意思」があることを伝えます。
「払う意思はあるが一括では難しい」と正直に伝え、現在の家計でも払える額での分割払い(分納)ができないか相談しましょう。
収入が大幅に減った場合や生活が苦しい場合
支払いの免除や猶予が認められる制度(減免措置)を利用できるか確認してください。
借金は債務整理をして、浮いたお金を税金の支払いに充てることで、全ての滞納解消を目指します。
年金受取口座が「借入先」と同じ場合の対策
もう一つ、手続きを始める前に気をつけなければならないのが、「銀行口座の凍結」です。
「カードローン等の借金がある銀行」で「年金」も受け取っている場合、そのまま手続きを開始すると、以下のような事態が起こります。
- 銀行口座が「凍結」され、預金が引き出せなくなる
- 口座に入っている預金や、直後に振り込まれた年金が、借金の返済に充てられてしまう
生活費が引き出せなくなる事態を防ぐため、慎重に進める必要があります。
1. 年金受取口座の変更(最優先)
- 借金のある銀行で年金を受け取っている場合
- 年金の振込先を「借金のない別の銀行口座」へ変更する
これにより、手続き開始後に元の口座が凍結されても、次回の年金は安全な口座に振り込まれるため、生活費を確保できます。
2. 公共料金・家賃などの引落し口座の変更
- 電気・ガス・水道・携帯電話代などの引落し口座を変更する
- または、「コンビニ払い」に切り替える
口座が凍結されると、各種引き落としもできなくなるため事前に変更が必要です。

年金受給者でも任意整理は可能?
- 年金を受給していますが任意整理をすることはできますか?
-
任意整理後に分割返済をしていくことができる場合は、年金受給者でも任意整理をすることができます。
- 任意整理の内容
- 利息をカットし、元金だけを3~5年(36〜60回)で分割返済する手続き
- 利用できる条件
- 任意整理後の返済額を、毎月無理なく支払えること
- 返済計画が赤字にならないことが必須条件
- 返済額の計算方法
- 借入額 ÷(36〜60)= 毎月の返済額
任意整理が向いている人
- 返済が可能(36〜60回で返し切れる見込みがある)
- 財産や生活への影響を抑えて、現実的に返済計画を組みたい
- 家族に秘密のまま債務整理をしたい
任意整理が向きにくい人
- 借金総額が大きく、分割返済では現実的に支払いができない
- 近い将来に収支が悪化する見込みが強い(支出増が確実など)
任意整理をしても、返済ができない場合は他の手続きを検討する必要があります。

毎月の返済額シミュレーション
任意整理後は36回~60回の分割払いになるので、借入額を36~60で割ることでおおよその任意整理後の毎月の返済額を算出することができます。
| 借入額 | 36回払い (3年払い) | 60回払い (5年払い) |
|---|---|---|
| 30万円 | 約8,300円 | 約5,000円 |
| 60万円 | 約16,600円 | 約10,000円 |
| 100万円 | 約27,700円 | 約16,600円 |
概算:毎月の返済額 = 残債 ÷ 回数(将来利息カット想定・100円未満は切り上げ)
※概算です。実際の返済額は和解条件・延滞状況・残債内訳などで前後します。
※計算結果は100円未満を繰り上げます。
年金受給者:任意整理をした事例
60代 女性年金で生活しながら借金の返済追われていました。司法書士に依頼して任意整理をしたところ、毎月の返済額が減り生活費を確保できるようになりました。
任意整理ができないパターンについては以下の記事で詳しく解説しています。


個人再生:年金受給者でも選択肢になるケース
個人再生は、借金を大きく減額して返済する制度です。
年金受給者でも、一定の収入(年金)があり減額後なら返済可能という状況では検討対象になります。
- 減額後の返済を継続できる見込みがある
- 財産や住まい等の事情があり、自己破産を避けたい
- 任意整理では返済が回らない
- 1500万円未満の借金
- 借金額の5分の1
- 減額後の金額が100万円未満の場合は100万円
- 1500万円以上3000万円未満の借金
- 300万円
- 3000万円以上5000万円未満の借金
- 借金額の10分の1
自己破産:年金受給者が「生活再建」を優先すべきケース
自己破産は、すべての借金の支払い義務が免除される手続きです。
返済がまったくできない状況でも、生活再建のために利用できる最終手段です。
- 返済よりも生活維持(住居・医療・介護)が最優先
- 長期的に見ても返済継続が難しい
年金受給者の相談で多い「つまずきポイント」3つ
ここからは、司法書士として実務でよく見るポイントです。
- 医療費・介護費の増加を見込まず、任意整理の返済が途中で苦しくなる
- 返済額は「今の生活費」ではなく「増える支出」も見込んで余裕をもって設計
- 受給口座(銀行)を債務整理に含めてしまい、生活インフラが一時的に混乱する
- 年金の受取・引落し(家賃/光熱費)を先に整えるのが鉄則
- 税金・国保・年金保険料を「借金と同じ」と思い、対策が遅れる
- 債務整理とは別に、窓口で分納・猶予の相談を並行して進める
取引が長い人は過払い金を確認すべき
- 債務整理をする前に何かしておいたほうがいいことはありますか?
-
取引が長い人は、任意整理をする前に過払い金があるか確認するべきです。
過払い金が発生していれば、借金は無くなるので債務整理をする必要もなくなります。
- 過払い金とは
- 法律(利息制限法)の上限を超える利息で取引をしていた場合に発生するもの
- 発生しやすい時期
- 2007年以前に借入を始めた人:過払い金が発生しやすい
- 2008年以降に借入した人:過払い金が発生する可能性は低い
多くの貸金業者は2007年前後に法律内の利息に見直しているため、2007年以前に借入を始めた人ほど発生しやすい傾向があります。
利息制限法の上限金利
| 借入額 | 上限金利 |
|---|---|
| 10万円未満 | 年20% |
| 10万円以上〜100万円未満 | 年18% |
| 100万円以上 | 年15% |
いつから借りたかを確認する方法については以下の記事で詳しく解説しています。


引き直し計算で減額や完済扱いになるケース
引き直し計算とは?
- 実際に払った利息を、法律上の上限利率に引き直して再計算すること
- 例:50万円を年27%で借入している場合
- 利息制限法内の18%で計算し直す
過去の高金利部分を法定利率に置き換えて再計算(引き直し計算)すると、元金の減りが早まります。
その結果、残高が減額されたり、すでに完済扱いとなって過払い金が生じることがあります。
年金で返済中:過払い金が返金された事例



2005年から借りて最近は年金から返済していました。返済が難しくなってきたので司法書士に相談したところ、借金がなくなりお金が戻ってきました。
例:50万円の借入がある場合
- 借金が0円になり、過払い金が20万円発生
- 借金が消えて過払い金請求で返金へ
- 残高が30万円に減額
- 減額後の残債を任意整理(利息カット・36〜60回で分割払い)
借金返済中の過払い金請求については以下の記事で詳しく解説しています。


よくある質問
障害年金や遺族年金を受給している場合でも債務整理はできますか?
はい。老齢年金に限らず、障害年金や遺族年金などでも手続きの利用は可能です。
年金以外に収入がないと、個人再生は利用できませんか?
個人再生は「継続的に返済できる安定収入」が必要です。
年金収入であっても裁判所に認められれば利用できます。
生活保護と年金を併用している場合でも債務整理は可能ですか?
生活保護と併用している場合は自己破産が選ばれることが多いです。


債務整理をすると税金や国民健康保険料の支払いも免除されますか?
いいえ。税金や社会保険料は債務整理の対象外です。
別途支払いが必要です。


まとめ:年金受給者でも債務整理は可能
- 年金受給者も任意整理はできる
- 任意整理後に毎月の返済ができることが条件
- 任意整理が難しい場合は個人再生(減額)か自己破産(免責)を検討
- 2007年以前からの取引は過払い金の可能性あり
- 債務整理をする際に過払い金の調査がされます
司法書士からのアドバイス
- 債務整理を検討する際は、収支を必ず具体的に計算することが重要です
- 感覚的に「払えそう」と思っても、数字にすると赤字になるケースが多くあります
- 医療費や介護費など将来的に支出が増える可能性も考慮して計画を立てましょう
- 取引が長い人はまずは過払い金の有無を確認
- その結果に応じて任意整理・個人再生・自己破産を選択することが大切です
不安がある場合は、司法書士や弁護士に早めに相談し、実際の返済計画を一緒にシミュレーションしてもらうことをおすすめします。


