「債務整理をすると車は手放さなければならないの?」
「仕事や通勤に使うから、できれば残したい」――このような不安を抱える方は多くいます。
実際、債務整理をしても車を残せるケースはありますが、手続きの種類やローン契約の内容によって結果が大きく変わります。
とくに、所有権留保の有無や信販会社・銀行などローンの種類が重要な判断ポイントです。
本記事では、
- 任意整理・個人再生・自己破産ごとの車の扱いの違い
- 所有権留保の仕組みと確認方法
- 債務整理後に車のローンを組める時期
を、司法書士が実務の視点からわかりやすく解説します。
最短結論:手続別に「車が残せるか」早見表
- 任意整理
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- 所有権留保あり
- 任意整理の対象に含めると、車を引き上げられる可能性あり
- ただし、自動車ローンを対象外にすれば引き上げリスクは回避可能
- 注意点:同一債権者に借入がある場合は、一部だけ除外するのが難しい
- 所有権留保なし
- 車を残せる可能性が高い
- 所有権留保あり
- 個人再生
-
- 所有権留保あり
- ローン会社が所有権を持っているため、車が引き上げられる
- 所有権留保なし
- 残せることもあるが、清算価値として評価額が返済総額に反映される
- 車の評価額が高いほど、返済額も増える傾向にある
- 所有権留保あり
- 自己破産
-
- 所有権留保あり
- ローン会社が所有権を持っているため、車が引き上げられる
- 所有権留保なし
- 評価額が20万円未満なら残せることもある(東京地裁等の目安)
- 自由財産拡張制度を使えば残せる場合もあるが、認められるのは例外的
- 所有権留保あり
「所有権留保」とは?
ローン完済まで車の所有権をローン会社やディーラーが保有する契約です。
自動車ローン返済中に債務整理をする場合、車が処分されるかどうかは、ローン契約に「所有権留保」があるかどうかで決まります。
ローン種別ごとの特徴
ディーラーローン
- 所有権留保:あり
- 引き上げリスク:高い
- 審査主体:信販会社(例:オリコ・ジャックスなど)
信販会社が所有権を持つため、債務整理の対象にすると引き上げリスクが高い。
自社ローン
- 所有権留保:あり
- 引き上げリスク:高い
- 審査主体:販売会社(自社貸付)
販売店が所有権を持つため、債務整理の対象にすると引き上げリスクが高い。
銀行マイカーローン
- 所有権留保:基本的にない
- 引き上げリスク:低い
- 審査主体:銀行
車の所有者は本人名義となるケースが多く、債務整理をしても車を残せる可能性が高い。
任意整理で車を残すためのポイント
- 自動車ローンを返済中に任意整理をすると、車は処分されてしまうんですか?
-
所有権が留保されている自動車ローンを任意整理すると、車は引き上げられます。
自動車ローンを任意整理の対象にしなければ車は処分されません。
自動車ローンを対象にしなければ車は失わない
- 所有権留保がある場合
-
- 自動車ローンを任意整理の対象にすると車は引き上げられる
- 対象から除外すれば車は残せる
- 所有権留保がない場合
-
- 任意整理の対象にしても車は失わない
- ただし、自動車ローンは元々金利が低いので任意整理をするメリットはあまりない
- ローン完済済みの場合
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- 任意整理をしても自動車が影響を受けることはない
任意整理は手続きする借金を選択できるため、自動車ローンを対象から外せば車は処分されません。
同一債権者に他の借入がある場合は除外が難しい
任意整理では、同じ債権者(同じ会社)で複数の借入がある場合、すべての債務を一括して交渉するのが原則です。
たとえば、
- オリコで自動車ローンを組んでいる
- 同時にオリコカードでキャッシング利用をしている
このケースでは、オリコカードのキャッシングだけ任意整理して、自動車ローンは除外するという対応は原則できません。
体験談:任意整理で自動車ローンを除外

仕事で車を利用しているので、任意整理で自動車ローンは対象外にしてもらいました。車を維持しつつ他の借金のみ利息0%の分割に変更できました。
任意整理については、以下の記事でも詳しく解説しています。




個人再生での車の扱い(清算価値の影響)
- 自動車ローン返済中に個人再生をすると車は処分されますか?
-
ローン返済中に個人再生をする際に、所有権留保があると車はローン会社に引き上げられます。
所有権留保が付いていなければ車が処分されることはありません。
ただし自己名義になっていても財産価値が高いと、清算価値保障の原則から個人再生をしても減額される金額が少なくなります。
個人再生はすべての債務を対象にする必要があるため、自動車ローン返済中なら自動車ローンも手続きに含まれます。
- 所有権留保がある場合
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- 車はローン会社に引き上げられる
- 生活や事業上の必要性が裁判所に認められると
- 例外的に車を除外できる場合もある(可能性は低い)
- 所有権留保がない場合
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- 車は処分されない
- ただし「清算価値保障の原則」により車の評価額が返済総額に影響する
- 車の財産価値が高いと借金の減額幅が縮小する
- ローン完済済みの場合
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- 自動車ローンを完済している人が他の借金を個人再生する際も、清算価値保障の原則が適用される
清算価値保障の原則とは?
借金の減額後の金額と、自分が所有する財産(車など)の価値を比較し、高い方の金額を返済する仕組みです。
「清算価値保障の原則」の詳細(基準額・計算例など)は個人再生のページで詳しく解説しています。


自己破産の場合(20万円基準と自由財産)
- 自動車ローンを返済中に自己破産をすると車は処分されますか?
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車の名義がローン会社の場合は、ローン会社に引き上げられます。
車が自己名義になっていても、東京地裁実務では、目安として20万円以上は換価対象となる運用例があります。
自己破産も手続きする業者を選択することはできないので、自動車ローンを返済中であれば必ず手続きの対象になります。
- 所有権留保がある場合
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- ローン会社に車を引き上げられる
- 所有権留保がない場合
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- 東京地裁では車の査定額が20万円未満なら手元に残せる
- ただし20万円を超える場合は売却される
なお、一般的な車の査定価値は、以下の経過年数を目安に20万円以下になる傾向があります。
- バイク:3年以上経過
- 普通車:6年以上経過
- 軽自動車:4年以上経過
- 自動車ローンを完済している場合
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- 売却査定価格が20万円以上あると自動車は処分される
自由財産の拡張とは?
裁判所が破産者の生活を保障するために、本来処分される財産を例外的に手元に残すことが認められる制度です。
裁判所に認められれば、生活や事業に必要な場合は「自由財産の拡張」で自動車を残せる可能性はあります。
破産後に現金で購入するという方法
自己破産では、手元に残せる現金が最大99万円まであります。
自己破産については以下の記事でも詳しく解説しています。


債務整理後に自動車ローンは組める?
- 債務整理をした後に自動車ローンを組むことはできますか?
-
債務整理をするとブラックリストに登録されるため、自動車ローンの審査にとおるのは難しいでしょう。
ブラックリストの登録が消された後は、通常の審査を受けることができます。
債務整理をすると、信用情報に事故情報(ブラックリスト)が登録されます。
そのため、自動車ローンの審査に通るのは難しくなります。
- 任意整理:完済してから5年
- 個人再生:完済してから5年または登録から7年
- 自己破産:登録から7年
ブラックリストが解除されれば再び自動車ローンを利用できます。



任意整理後はブラックリストに載るので審査が難しいと言われました。返済も少し余裕がでたので、中古車を一括購入するため少しずつ貯金を始めました。
ブラックリストの影響については、以下の記事でも詳しく解説しています。


よくある質問
第三者が自動車ローンを代わりに支払う(第三者弁済)はできますか?
可能です。たとえば家族が残りの自動車ローンを一括で支払えば、車の所有権は本人に移ることがあります。ただし、偏頗弁済に注意が必要です。
債務整理をすると、家族名義の車は処分されますか?
処分されません。家族名義だったり、家族がローンを組んでいる車は処分対象にはなりません。
債務整理後、家族名義の車を使い続けても問題ありませんか?
家族が実際に所有しており、その車を利用するだけなら問題ありません。
自動車ローンの保証人がいる場合、債務整理をするとどうなりますか?
保証人が代わりに支払い義務を負うことになります。保証人付きローンを整理する場合は、事前に保証人への説明が必須です。


まとめ|債務整理ごとの車への影響一覧
- 任意整理
- 自動車ローンを任意整理の対象にしなければ車が引き上げられることはない
- 個人再生
- 所有権が留保されていると車は引き上げられる
- 所有権留保なし、または自動車ローンを完済していれば、車が引き上げられることはない
- ただし、減額後の金額よりも自動車の価値が高い場合には、返済金額が増えることになる
- 自己破産
- 所有権が留保されていると車は引き上げられる
- 所有権が留保されていなかったり、自動車ローンを完済している場合も、車の売却価格が20万円以上であれば処分される
司法書士からのアドバイス
債務整理を検討する際、「車を手放したくない」という理由で手続きをためらう方は少なくありません。
任意整理であれば自動車ローンを除外することで、車に影響を出さずに手続きを行うことができます。
ただ、本来は自己破産が妥当なのに、車を失いたくないために無理な内容で任意整理を行うと、結局自己破産する可能性があります。
また、車を失っても現金で中古車を買うこともできます。
実務上は、手続きを始める前に
- 車検証の所有者欄
- 利用している債権者の社名
上記を確認しておくことで、最適な手続き方針を立てやすくなります。
「車を残したい」「仕事でどうしても必要」という方は、
まず専門家に相談し、あなたの契約内容に応じた最も安全な手続きを選びましょう。
どの債務整理が適しているかについては、以下の記事で詳しく解説しています。

