借金を相続したら|相続放棄できないときの債務整理を司法書士が解説

当サイトの記事はすべて司法書士三浦永二(東京司法書士会所属、登録番号7300号)が執筆しています。

家族が亡くなり相続が発生したとき、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。

相続放棄をすれば借金の支払い義務を免れることができますが、自宅等の財産があったりと、事情によって放棄できないケースもあります。

相続放棄ができないケースでの債務整理の手段と注意点について、司法書士が詳しく解説します。

参考元:債務整理-東京司法書士会

相続の放棄の申述-裁判所

目次

まず比較|相続放棄・限定承認・債務整理の違い

相続放棄
  • 概要:相続人ではなくなり、財産も債務も一切承継しない
  • 向いているケース:明らかに借金の方が多い、財産を引き継ぐ必要がない場合
  • デメリット・リスク:プラスの財産も取得不可
    • 熟慮期間3か月
    • 単純承認に注意
限定承認
  • 概要:承継はするが、取得した財産の範囲内でのみ債務を弁済
  • 向いているケース:財産もあるが負債の全体像が不明だったり、自宅等がある場合
  • デメリット・リスク:相続人全員の申述が必要
    • 熟慮期間3か月
    • 手続きに時間がかかる
債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)
  • 概要:相続放棄ができない/しない場合に、相続した債務を整理
  • 向いているケース:不動産や事業を守りたい
    • 放棄できない財産がある
  • デメリット・リスク:信用情報登録(ブラックリスト)

ブラックリストの影響については以下の記事で詳しく解説しています。

3か月の「熟慮期間」と期間伸長の基本

  • 起算点:相続開始を知った日から3か月
  • 期間内に行うこと:財産・負債調査、方針決定(放棄/限定承認/承継)
  • 間に合わないとき家庭裁判所に期間の伸長を申し立てる
  • 単純承認の注意:相続財産の処分等で放棄不可になることがある

借金を相続したら|まずは相続放棄を検討

借金があった場合は、相続放棄をすればいいのでしょうか?

相続放棄をすると、相続人が残した財産も相続することができなくなります。

借金等のマイナスの財産のほかに、預貯金や不動産のようなプラスの財産も調査してから相続放棄を検討するべきです。

相続放棄をすれば、借金の返済義務を免れることができます。

ただ、借金はあるものの「マイホーム等の財産があるので相続放棄はできない」というようなこともあると思います。

相続した借金の返済が困難な場合は、債務整理をすることもできます。

「借金だけ放棄して、財産だけ相続する」といった選択はできません。

相続人が「債務整理」を検討するのは、主に以下のようなケースです。

  • 相続放棄の期限(3か月)を過ぎてしまった場合
  • 財産があるため、相続放棄を選ばない場合

相続人の順位と法定相続分

  1. 配偶者
    • 常に相続人になる
  2. 第1順位:子ども
    • 子がいない場合は孫などの直系卑属
  3. 第2順位:父母・祖父母などの直系尊属
  4. 第3順位:兄弟姉妹
    • 兄弟姉妹がいない場合は甥・姪

※ 上の順位に相続人がいる場合、下の順位は相続人になりません。

借金の負担割合の基礎(相続分の考え方)

相続人の構    配偶者の割合その他の相続人   
配偶者のみ100%
配偶者+子1/2子で1/2を均等に分配
配偶者+父母等2/3父母等で1/3を均等に分配
配偶者+兄弟姉妹3/4兄弟姉妹で1/4を均等に分配

相続人が複数いる場合の借金の分担

法定相続人が複数いる場合、借金は相続人全員が法定相続分に応じて分割して引き継ぎます。

夫が100万円の借金を残し亡くなって妻と2人の子供がいるケース

妻:1/2⇒50万円の債務

子供:1/2で50万円を2人で分割⇒1人あたり25万円の債務

遺産分割協議で「妻がすべての債務を負担する」と決めても、債権者は法定相続分に基づいて請求する権利があるため、協議には拘束されません。

また、他の相続人が返済を怠ったとしても、自分の法定相続分以上の返済義務は生じません。

上記の例で妻が返済を怠っても、子供は25万円以上の支払いの義務を負いません。

債務整理ではなく相続放棄した事例

40代 女性

母の借金が数百万円あり、司法書士に相談しました。プラスの財産はほとんどなかったので相続放棄を進められ借金を背負わずに済みました。

過払い金の可能性も忘れずに

長年借金を返済していた場合、過去に利息制限法を超える高金利で支払っていた分が「過払い金」として返ってくる可能性もあります。

借金だと思っていたものが、過払い金があるとプラスの財産になるので、過払い金の調査は大切です。

相続人からの過払い金請求については以下の記事で詳しく解説しています。

相続人ができる3つの債務整理方法

相続人がするならどの債務整理がいいですか?

財産があるのであれば、財産を処分する必要がない、任意整理をおすすめします。

ちなみに亡くなった方に税金の滞納がある場合でも、税金を債務整理することはできません。

相続放棄なら税金の支払い義務も相続されないので、支払う必要はありません。

任意整理:財産を残して借金を減らす方法

  • 利息はカット
    • 元金だけを分割返済
  • 財産処分の必要なし
    • 不動産や預貯金などの相続財産を守れる
  • 選ばれる場面
    • 財産があるため相続放棄はできないが、返済負担を軽くしたい場合

相続人が債務整理をするのは、財産があって相続放棄ができないケースがほとんどです。

そのため、財産を処分することなく、返済の負担を軽くすることができる任意整理を選択するケースが多いです。

自宅があったため任意整理を選んだ事例

50代 男性

父の死後に借金が判明しましたが、自宅があったため相続放棄はできませんでした。任意整理で分割にして毎月の返済を減らせました。

任意整理については以下の記事でも詳しく解説しています。

自己破産:借金をゼロにするが財産は処分対象に

  • 効果:裁判所に申し立てて借金を全額帳消しにできる
  • デメリット:自宅や預貯金など相続財産は処分対象

自己破産で借金は全額帳消しになりますが、自宅や預貯金などの相続財産は処分の対象になるので、財産を残すことはできません。

処分対象となる財産例処分基準
現金99万円を超える分
預貯金20万円以上
自動車売却価格20万円以上
生命保険の解約返戻金20万円以上
退職金見込額160万円以上の場合、その8分の1の金額

税金の支払い義務は自己破産でも免除されないため、税金を滞納している場合には不向きです。

相続放棄ができる状況であれば、自己破産よりも相続放棄の方がメリットは大きいです。

相続放棄期間を経過してしまった等の特殊な事情がないのなら、自己破産より相続放棄を選択すべきです。

自己破産については以下の記事でも詳しく解説しています。

個人再生:財産が多いと負担が重くなることも

  • 効果:裁判所の認可を得て借金を大幅に減額
    • 原則3年で返済
  • 減額の目安
    • 借金1500万円未満:1/5(最低100万円)
    • 借金1500万〜3000万円未満:300万円
    • 借金3000万〜5000万円未満:1/10
  • 注意点:財産評価額が減額後の借金額を上回る場合、その評価額が返済額に

通常は1000万円の借金を個人再生すると200万円に減額されますが、500万円分の財産があると500万円までしか減額されません。

そのため、財産を持っている人の場合は個人再生をするメリットがなくなることがあります。

個人再生については以下の記事でも詳しく解説しています。

3制度の比較

制度   借金の扱い   財産の扱い   
任意整理利息カット+元金分割財産は守れる
自己破産借金ゼロ財産は処分対象
個人再生借金大幅減額財産額によって返済額が増える

相続放棄や債務整理をする前に、必ず財産の全体を調査

亡くなった人が借金残してなくなったら、まずは何をすればいいですか?

まずは財産の調査が必要になります。

預貯金や不動産のようなプラスの財産以外にも、借金等のマイナスの財産も調査が必要になります。

マイナスの財産のほうが多いなら、相続放棄を検討するべきです。

家族が亡くなり相続が発生したら、まずは相続財産がどのぐらいあるかを調査します。

預貯金や不動産、自動車等のプラスの財産は当然のこと、借金等のマイナスの財産もすべて調査する必要があります。

借金があるかどうかわからないのであれば、まずは自宅に資料が残っていないか確認すべきです。

借金の確認方法

  • 貸金業者との契約書
    • 借入残高や保証人の有無を確認することで、相続すべき負債を把握できる
  • 支払明細
    • 借入残高や返済状況がわかり、相続財産調査や相続放棄の判断材料になる
  • 督促書
    • 未払いがある場合に届くので、債権者や債務額を確認できる
  • カード
    • どの金融機関と契約していたかを特定できる
  • 通帳で引き落とし名義の確認
    • 定期的な引き落としや支払い記録から、どこに返済していたかを確認可能
  • 信用情報機関(JICC/CIC/全国銀行協会)から信用情報を取り寄せる
    • 借入先・契約残高・延滞情報などを確認でき、相続放棄や債務整理を判断する際の資料になる

財産調査の結果

マイナスの財産のほうが多いケースでは、相続放棄等を検討すべきです。

相続財産があり相続放棄ができなくて、かつ支払が難しいのであれば債務整理をするという方法がいいでしょう。

状況優先アクション
負債が明らかに多い
プラス財産なし
相続放棄の検討
不動産
事業を守りたい
承継+債務整理
過払い金の可能性あり過払い金調査を最優先

よくある質問

相続放棄をした場合、ほかの相続人に借金は引き継がれますか?

放棄をすると次順位の相続人が相続することになります。

子が放棄した場合は父母に、父母が放棄した場合は兄弟姉妹が相続人になります。

相続した借金にショッピングのリボ払い等も含まれますか?

含まれます。金融機関やカード会社との契約に基づく債務は、ショッピング・リボ・立替払いなども相続債務になります。

借金を相続した場合、時効で消滅することはありますか?

あります。相続した借金であっても、原則5年の消滅時効が適用されます。

途中で裁判を起こされたりしていると時効が更新します。

相続放棄をしたのに債権者から請求書が届くのはなぜ?

債権者が放棄を知らない場合があります。相続放棄申述受理通知書の写しを提出することで、請求は止まるのが通常です。

相続放棄の期間伸長は何度でもできますか?

裁判所が必要だと認めた場合は、再度認められることもあります。

まとめ

STEP
財産の調査
調査対象
  • 借金(消費者金融・クレジットカードなど)
  • 預貯金
  • 不動産、自動車など
  • 過払い金(払いすぎた利息)
STEP
マイナスの財産が多ければ相続放棄を検討

調査の結果、借金などのマイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続放棄が有効です。

マイナスの財産が多くても、持ち家があったりで相続放棄ができない場合は、債務整理をすることもできます。

STEP
相続放棄ができず返済が困難であれば債務整理を検討

任意整理では財産を処分する必要がありません。

そのため、財産があって相続放棄ができない人が債務整理をするなら、任意整理がおすすめです。

司法書士からのアドバイス

借金を相続した場合でも、相続放棄・任意整理・自己破産・個人再生など、状況に応じた対処法があります。

ただし、それぞれにメリット・デメリットがあり、相続財産の内容やタイミングによって選択が変わります。

安易に過払い金を請求したり財産を処分したりすると、相続放棄の道が閉ざされるなど取り返しのつかないリスクがあります。

期限に追われて不安を感じる方は、司法書士や弁護士といった専門家に早めに相談してください。

相続人・家族にとって最も納得感のある解決策を一緒に選び取ることができます。

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