相続人の過払い金請求【債務整理と相続放棄の違いも司法書士が解説】

  • 過払い金の請求をせずに亡くなってしまった
  • 借金を残して亡くなってしまった
  • 相続放棄をしたほうがいいのかの判断方法

借金を残して家族が亡くなってしまっても、何年も返済を続けていたのであれば過払い金が発生している可能性があります。

過払い金が発生していれば、それは負債ではなく財産です。

完済後に過払い金請求をする前に亡くなったケースでも、過払い金返還請求権は相続されるので相続人から請求することができます。

過払い金が発生していないのであれば、相続した借金の債務整理を行うことは可能ですが、まずは相続放棄を検討するべきです。

借金を相続したらどうすればいいのか?過払い金があるか確認するにはどうすればいいのか?まずは何から始めればいいのか?債務整理と相続放棄の違いについて解説しています。

参考元:詳細-法テラス

債務の整理をしたいと考えています。どのような方法がありますか?-法テラス

目次

過払い金が発生しているか確認する方法

家族が過払い金請求をしないまま亡くなったら相続人から過払い金請求はできますか?

過払い金請求権も相続されるので相続人から請求をすることができます。

借金も相続されるので、相続放棄をしないのなら相続人が返済する必要があります。

借金を残して亡くなり、過払い金が発生していないのであれば、相続した借金を債務整理することもできますが、まずは相続放棄を検討するべきです。

亡くなった人に過払い金が発生していれば、相続人から請求をすることができます。

下記の法律の制限よりも高い利息で支払っていたのであれば、過払い金は発生します。

利息制限法の金利の上限
10万円未満の借入20%まで
10万円以上~100万円未満の借入18%まで
100万円以上の借入15%まで

利息は契約書や、貸金業者によっては明細等で確認できたりします。

書類がなく利息が何%だったのかわからないなら、2007年よりも前からの借入であれば過払い金が発生している可能性があります。

多くの貸金業者が2007年頃に利息に見直しをしているので、2008年以降の借入だと過払い金が発生する可能性は低いです。

過払い金はキャッシングで発生するので、ショッピングのリボ払いや銀行からの借入では発生しません。

業者名や取引年数がわからない場合

取引年数等の詳細が不明であれば、貸金業者から「取引履歴」を取り寄せるといつからの借入だったのかを確認することができます。

取引履歴には過去の取引が記載されているので、過払い金が発生しているか、いくらの金額になるのかを計算して確認することができます。

取引履歴は貸金業者によって取得方法が異なります。

まずはカスタマーセンターへ連絡して、財産調査のために亡くなった名義人の取引履歴を取得したいと伝えれば問題ありません。

弁護士や司法書士に依頼をするのであれば、取引履歴の取得から計算まで弁護士や司法書士が代理人として行うことができます。

会社名がわからない場合は、明細やカードを探してみるか、信用情報機関から信用情報を取り寄せれば確認できることがあります。

過払い金の確認方法
  • 20%を超える利息で返済していたなら過払い金は発生する
  • 消費者金融やクレジットカード会社からの借入で、2007年よりも前から借りていたなら過払い金が発生している可能性が高い
  • 取引年数がわからないなら取引履歴を取り寄せる
  • 会社名がわからない時は信用情報を取り寄せる

過払い金の計算方法

過払い金を算出するには、取引履歴をもとに正しい利息になおして過払い金の金額を算出する、「引き直し計算」を行います。

過払い金が発生していれば、相続人から請求を行うことが可能です。

借金が残るのであれば、相続して借金を返済していくか相続放棄を検討します。

滞納中の借金に過払い金が発生していた場合

相続人の誰が過払い金請求をするのか

相続人が複数いる時は誰が過払い金請求をするんですか?

相続人全員から請求するか、遺産分割協議をして相続人の一人から過払い金請求をする方法になります。

相続人が何人かいるのであれば、相続人全員から請求することもできますし、遺産分割協議を行って一人の方から請求することもできます。

ちなみに相続人の一人から自分の相続分のみの過払い金を請求することも理論上できます。

しかし、相続人から何度も請求される可能性があり、一度で解決できないため貸金業者に請求に応じてもらえない可能性があります。

他の相続人と連絡が取れない等の事情がなければ基本的には全員から、または遺産分割をして請求を行うことになります。

相続人から過払い金請求をする方法
  • 相続人全員から請求
  • 遺産分割協議をして一人から請求

相続人の確認

以下の順番で相続人になります。

STEP
配偶者(夫又は妻)と子供

子供が亡くなっていれば孫が相続人になる

STEP
配偶者と亡くなった人の父母

父母が亡くなっていれば祖父母が相続人になる

STEP
配偶者と兄弟姉妹

兄弟姉妹がなくなっていればその子供が相続人になる

配偶者がいる場合はすべての場合で、配偶者は相続人になります

上記①の子供や孫等がいなければ②の父母や祖父母等が相続人になります。

②の父母等がいなければ③の兄弟姉妹が相続人になります。

①の子供等がいるときは、②の父母や③の兄弟姉妹は相続人にはなりません。

相続人ごとで相続される割合も異なります。

法定相続の割合
  1. 配偶者1/2、子供等1/2
  2. 配偶者2/3、父母等1/3
  3. 配偶者3/4、兄弟姉妹等1/4

夫が1000万円の遺産を残し亡くなって、妻と2人の子供がいるケース

妻=500万円、子供2人で500万円を分けるので250万円ずつとなります。

財産調査

借金があった場合は相続放棄をすればいいのでしょうか?

相続放棄をすると、相続人が残した財産も相続することができなくなります。

借金等のマイナスの財産のほかに、預貯金や不動産のようなプラスの財産も調査してから相続放棄を検討するべきです。

ちなみに借金があっても、長期間返済していたのであれば過払い金が発生している可能性があります。

そのため、財産調査では過払い金が発生しているかどうかも調査をする必要があります。

家族が亡くなり相続が発生したら、まずは相続財産がどのぐらいあるかを調査します。

借金があるかどうかわからないのであれば、まずは自宅に資料が残っていないか確認すべきです。

借金の確認方法
  • 貸金業者との契約書
  • 支払明細
  • 督促書
  • カード
  • 通帳で引き落とし名義の確認
  • 信用情報機関(JICC/CIC/全国銀行協会)から信用情報を取り寄せる

信用情報には、どこの業者から、いつから借り入れをしてるか、現在の借入額も記載されています。

預貯金や不動産、自動車等のプラスの財産は当然のこと、借金等のマイナスの財産もすべて調査する必要があります。

調査の結果マイナスの財産のほうが多いケースでは相続放棄等を検討します。

相続財産があり相続放棄ができなくて、かつ支払が難しいのであれば債務整理を検討します。

長年返済を行ってきたのであれば、借金が過払い金というプラスの財産になっている可能性があります。

借金だけを放棄して、財産だけを相続するということはできません。

相続人からの過払い金請求で必要になる書類

相続人から過払い金請求をするにはどのような書類が必要になりますか?

まずは相続が発生していることを証明するために戸籍が必要になります。

誰が相続人になるのかを確認するために、亡くなった人の戸籍謄本は生まれた時まで遡った戸籍を集める必要があります。

相続人からの過払い金請求では以下の書類が必要になります。

必要書類
  • 亡くなった人の生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍
  • 遺産分割協議書(印鑑証明書も必要)
  • 相続放棄した相続人がいる場合は相続放棄申述受理通知書
  • 遺言書がある場合は遺言書

亡くなった人の配偶者や子供等の相続人を確認するために、生まれてから死亡するまでの間のすべての戸籍謄本が必要になります。

本籍地がある市区町村の役所で取得しますが本籍地を転々としている場合は、その都度本籍地があった役所へ請求する必要があります。

相続人になる人が死亡していないか?離婚していないか?等を確認するため相続人全員の現在の戸籍が必要になります。

本来相続人になるべき人が既に亡くなっているケースでは、その人の生まれてから死亡するまでのすべての戸籍も必要になります。

遺産分割協議は弁護士や司法書士が作成しますし、戸籍についても弁護士や司法書士の方で集めることも可能です。

遺言書があるケースでも、相続人や遺産譲受人全員の合意があれば遺産分割協議をすることも可能です。

上記の必要書類を収集する必要があること以外は通常の過払い金請求の流れと同様に進みます。

しかし相続人からの過払い金請求には注意点もあります。

過払い金請求をすると相続放棄ができなくなる

相続放棄を検討していますが過払い金は請求できなくなりますか?

過払い金請求をすると相続放棄ができなくなります。

長年払っていたなら過払い金が発生していることがあるので、相続放棄をする前に過払い金が発生しているか確認するべきです。

財産よりも借金が多い場合は相続放棄を検討すべきですが、相続放棄には条件があります。

相続放棄の条件
  • 相続があったことを知った時から3か月以内にすること
  • 単純承認に該当する行為をしていないこと

過払い金請求をすると、上記の単純承認をしたことになるので相続放棄ができなくなります

過払い金が発生していると期待していたけど、発生していなくて借金だけ残ってしまうこともあり得ます。

逆に相続放棄を検討していたが調査してみたら過払い金が多額で、相続放棄をする必要がなくなることもあり得ます。

まずは調査を行って借金がなくなるのか?過払い金はどのぐらい発生しているのか?を確認して、過払い請求するか相続放棄をするかを検討すべきです

ちなみに過払い金だけ回収して、借金については相続放棄をするということはできません。

借金含めたすべての財産を引き継ぐか、財産と借金すべてを放棄するかのどちらかです。

財産調査をして財産がなく、借金だけがあるなら相続放棄をすべきです。

過払い金があっても借金の方が多いのであれば、過払い金請求ではなく相続放棄をするべきです。

自宅等があり相続放棄はできないのであれば過払い金請求をして、借金の支払いが難しいのであれば債務整理をすることができます。

過払い金の時効について

過払い金の時効は、最後の取引から10年です

これは相続が発生した場合も変わりません、亡くなってから10年ではありません。

借金を残したまま亡くなった場合は時効は問題にならない可能性が高いですが、亡くなる前に既に完済していたのであれば時効に注意が必要です。

また、途中で完済したことがあると取引の分断で途中完済時点までの過払い金が時効になってしまうこともあります。

相続人の債務整理

事情により相続放棄ができなくて、返済も難しい場合はどうすればいいですか?

借金を相続して相続放棄ができないのであれば、借金を通常どおり返済していくか、支払いが難しければ相続した借金を債務整理することができます。

相続人が債務整理する際の注意点として、法定相続人が何人かいると共同相続人全員が法定相続分に応じて借金を相続します。

夫が100万円の借金を残し亡くなって妻と2人の子供がいるケース

妻=1/2の50万円の借金

子供=1/2の50万円を2人で分割するので、25万円ずつの借金となります。

上記のケースでは妻がすべての借金を負う旨の遺産分割協議をしても、債権者側はその遺産分割協議に拘束されません。

債権者は法定相続分どおりに請求することができます。

共同相続人の中に支払わない人が居てもその分が他の相続人に上乗せされることはなく、法定相続分以上の支払をする必要はありません。

上記の例で妻が返済を怠っても、子供は25万円以上の支払いの義務を負いません。

任意整理

任意整理を行うと利息は支払う必要がなくなり、元金だけを分割で返済することになります。

また、任意整理では財産を処分する必要もありません。

相続人が債務整理をするのは、ほとんどのケースで財産があることが前提なので財産を処分することなく、返済の負担を軽くすることができる任意整理を選択することが多いです。

ただし、亡くなった人が税金を滞納していた場合、税金は債務整理を行うことはできないので任意整理をするか相続放棄をするかを検討する必要があります。

任意整理のメリット

自己破産

相続人からの債務整理では、自己破産を行うことはほとんどないでしょう。

自己破産をすると借金を支払う必要がなくなる一方で、相続放棄と同様に自宅等の相続財産は売却しなければなりません。

また、亡くなった人が税金を滞納していても、自己破産では税金は免責されません。

しかし、相続放棄なら税金を支払う必要もなくなるので自己破産よりも相続放棄の方が有利です。

相続放棄期間を経過してしまった等の特殊な事情がないのなら、自己破産より相続放棄を選択すべきです。

個人再生

相続人からの債務整理では、個人再生もあまり利用されません。

個人再生では減額した借金よりも財産の価値の方が上回る場合は、財産額を基準にして返済額が決められます。

個人再生で減額になる金額
  • 1500万円未満の借金=借金額の5分の1(減額後の金額が100万円未満の場合は100万円)
  • 1500万円以上3000万円未満の借金=300万円
  • 3000万円以上5000万円未満の借金=借金額の10分の1

個人再生は上記の減額した金額と、自己破産をした場合に財産を売却した金額(清算価値)を比べて、高いほうの金額を原則3年(36回)、最大5年(60回)で分割で支払う手続きです。

通常は1000万円の借金を個人再生すると200万円に減額されますが、900万円分の財産があると900万円までしか減額されません。

そのため、財産を持っている人の場合は個人再生をするメリットがないことがあります。

まとめ

過払い金返還請求権も相続されるので相続人から請求はできます。

相続ではない過払い金請求と異なる点は、戸籍等の書類が必要になることです。

相続人からの過払い金請求の注意点としては、相続放棄ができなくなることです。

それ以外は通常の本人からの過払い金請求と変わりませんので、それほど手間が増えるということもありません。

相続が発生したら、まずは財産調査をして正確な財産額と借金額を算出することです。

借金の方が多いのであれば相続放棄を検討するべきです。

しかし、自宅等の財産があるので相続放棄ができず、かつ支払いが厳しそうであれば債務整理を検討するという流れになります。

また、相続放棄ができる期間には制限があるので注意が必要です。

財産調査が非常に重要になります。調査が難しい財産も多いので、難しい場合は専門家に任せることをおススメします。

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